建設業を営むには、一定規模以上の工事を請け負う場合、建設業法に基づいて都道府県または国土交通大臣の許可を受ける必要があります。今回は、専門工事業のひとつである「左官工事業」の許可について、実務的な観点からわかりやすく解説します。これから建設業許可の取得を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
1. 左官工事とは何か?
左官工事とは、主に「コテ」や「鏝板(こていた)」を使い、建物の壁や床、天井などに、モルタルや漆喰、プラスターなどを塗りつけて平らに仕上げる工事のことです。職人の手作業による技術が要求される、伝統的かつ重要な工程です。
具体的な工事例:
- モルタル塗り仕上げ
- 漆喰や土壁の塗り仕上げ
- プラスター(石膏)塗り
- コンクリート面の補修や化粧仕上げ
- タイル貼り前の下地づくり
このように、建物の「肌をつくる」工程といっても過言ではありません。左官職人の技術力が、仕上がりの美しさや耐久性を左右します。
2. 建設業許可における「左官工事業」とは?
建設業許可では、全29業種の中で「左官工事業」は**専門工事業(17業種)**のひとつに分類されます。
左官工事業の定義(国土交通省告示)
工作物に壁土、モルタル、しっくい、プラスターその他これらに類する材料をコテ塗り、吹付け又ははけ引き等の方法により仕上げる工事。
この定義の通り、左官工事は建物の最終仕上げを担う工種です。外装・内装を問わず、塗り壁や下地処理などの業務を行う場合には、左官工事業の許可が必要になるケースが多くあります。
3. 左官工事業で建設業許可が必要となる基準
「自分は個人の住宅だけを請け負ってるから大丈夫」と思われるかもしれませんが、以下のいずれかに該当する場合は、建設業許可が必要です。
許可が必要な工事規模:
- **1件の請負金額が500万円以上(税込)**の工事(材料費込み)
たとえば、「外壁の左官仕上げ+下地補修」で材料費を含めて500万円以上の請負契約になる場合、建設業許可が必要です。許可がないまま契約してしまうと、違法となり行政処分や罰則の対象となることもあります。
4. 左官工事業の許可取得に必要な条件
建設業許可は、誰でもすぐに取れるわけではなく、以下のような「要件」を満たす必要があります。
主な許可要件(抜粋):
- 経営業務の管理責任者がいること
- 建設業の経営経験が5年以上ある者 など
- 専任技術者がいること(※重要)
- 左官工事の実務経験が10年以上の者
- もしくは、左官技能士(1級・2級)などの資格保有者
- 誠実性があること
- 欠格要件(破産、暴力団関係など)に該当しない
- 財産的基礎があること
- 個人:500万円以上の預金または資産証明
- 法人:500万円以上の自己資本 など
- 欠格事由に該当しないこと
- 禁固刑以上の刑を受けて5年以内 など
特に「専任技術者」の実務経験や資格証明がネックになりやすいため、早めに準備を始めるのが得策です。
5. 技術者として認められる資格・経験
左官工事業における「専任技術者」として認められるためには、次のいずれかに該当する必要があります。
専任技術者になれる人:
- 左官工事の実務経験が10年以上ある
- もしくは、
- 1級左官技能士(実務経験3年以上)
- 2級左官技能士(実務経験5年以上)
- その他:工業高校の建築科卒+実務経験 など
左官職人として長年従事してきた方であれば、実務経験だけで専任技術者になれる可能性があります。ただし、工事写真や発注書、請求書などで実務を証明する必要があります。
6. 許可申請に必要な書類と流れ
主な必要書類(例:東京都知事許可)
- 建設業許可申請書
- 経営業務管理責任者証明書
- 専任技術者証明書(資格証明または実務経験証明)
- 納税証明書、確定申告書、残高証明書など
- 登記簿謄本(法人の場合)
- 住民票、身分証明書
許可取得の流れ(概要):
- 必要書類の準備
- 行政書士などの専門家によるチェック
- 都道府県(または国土交通省)への申請
- 審査(約1~2か月)
- 許可証の交付
申請内容に不備があると差し戻しになり、許可取得が大きく遅れるので、プロの支援を受けることも検討しましょう。
7. 左官工事業でよくある質問(Q&A)
Q1. 塗り壁工事が主ですが、左官工事業だけで大丈夫?
→ A. 壁の仕上げが中心であれば「左官工事業」で問題ありませんが、タイルや内装工事を含む場合は「タイル・れんが・ブロック工事業」「内装仕上工事業」の許可も検討しましょう。
Q2. 個人事業主でも許可を取れますか?
→ A. はい、取れます。必要なのは法人かどうかではなく、要件を満たしているかどうかです。
8. 許可を取得するメリット
左官工事業の建設業許可を取得することで、以下のようなメリットがあります。
- 500万円以上の工事を合法的に受注できる
- 公共工事の入札に参加可能になる
- 元請・大手ゼネコンとの取引機会が増える
- 信用力がアップし、銀行融資や取引先開拓に有利
長期的に事業を拡大したいなら、早めの許可取得が圧倒的に有利です。
まとめ:左官職人としてステップアップしたいなら「許可取得」は必須!
左官工事業は、建設現場において重要かつ繊細な技術が求められる専門分野です。これまでの実務経験や職人技を、さらにビジネスとして拡大していくためには、建設業許可の取得は避けて通れません。
もし、「許可を取りたいけれど、自分が該当するのかわからない」「書類作成に不安がある」という場合は、行政書士などの専門家に相談するのも一つの手です。
あなたの左官職人としての技術が、正式な「建設業者」として認められ、さらなる飛躍の一歩となることを願っています。
※ご相談は当事務所でも随時受付中です。お気軽にご連絡ください!
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